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前ページ次ページ使い魔の達人 「宇宙の果ての何処かにいる、私の僕よ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!」 鈴のように良く通った、真摯な声が辺りに響く。しかしそれは、どこか逼迫したものも含んでいた。 「私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、応えなさい!」 それは、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの幾度目かの渾身の叫びであり、古より伝わるコモン・マジック、サモン・サーヴァントの詠唱であり、自らを救うための言葉であった。 刹那、爆発。突風が吹き荒れ、煙と土埃が舞った。 先程から続く結果に、周りで見ていた同級からお決まりの野次が飛んだ。 降りかかる其れも、突風で乱れる髪も気にせず、晴れぬ煙を見つめながら、お願い、とルイズは心の内で祈った。 ここ、トリステイン魔法学院において二年次進級の際に行う春の恒例行事、召喚の儀式で成功を収めねば、いよいよ退学になってしまうからだ。 誰かが風の魔法を使ったのだろうか。煙がひゅうと払われ、爆心地の状況が次第窺えるようになる。 果たして其処に何が在るか、ルイズは今度こそ、と目を見張り―― 「……へ?」 思わずそんな声を漏らしてしまった。やがて、重い足取りで‘それ’に向かう。 其処に居たのは、何処をどう、目を凝らしても拭っても、見紛う事無く、普通の人間に見えた。 黒い髪で黄色い肌。見慣れぬ顔立ちで、詰襟の黒いの服に身を纏った少年だった。 地面に横たわり、気を失っている様子。 いや、普通の人間だが、普通の状態ではない。 気を失っていることもそうだが、見れば身体のあちこちに小さな怪我を負っている。 「…おい見ろよ、人間だ!」 呆然としていると、周りの一人がそんな声を挙げた。それに呼応するかのように 「ゼロのルイズが、平民を召喚したぞ!!」 そう言えば、この少年はマントを纏っている風でもない。杖を携えている様子も無い。即ち―― 「やっぱりゼロはゼロね!平民を使い魔にしてるのがお似合いだわ!」 口々にそんな台詞を重ねる同級達。その事実に、ルイズは目の前が真っ暗になりそうだった。 と、そんな周りの声に反応したのか、少年――武藤カズキは重たげに瞼を開ける。 ルイズの見下ろす使い魔への第一声は、始まりの言葉は、こんな間抜けな問いであった。 「あんた誰?」 使い魔の達人 第一話 新しい世界 「え、えーと…オレは、武藤。武藤、カズキ」 どこか聞き覚えがある声の、目の前の女の子に間抜けな返事をしながら、カズキはぼんやりと思考する。 えーと、誰だこの子。 女の子――ルイズは黒いマントの下に白いブラウス、グレーのプリーツスカートを着て身を屈め、カズキの顔を呆れた様に覗き込んでいた。 ブラウスとスカートはともかく、マント?カッコいいなぁ 「ムトウ、カズキ?変な名前ね。どこの平民?」 っていうか、ここドコだろ? ルイズの言葉を余所に周りを見渡せば、男女の違いは在れど、ルイズと似たような服装の連中がそこかしこに佇んでいた。 ……幻覚だろうか。それぞれの傍らに、一般的な動物から、一般的でない動物。 果てはゲームに出てくるような珍奇なものも窺えた。 …なんだあれ。動物型の…じゃないよな。章印は見えないし…うーん? っていうかオレ、さっきまで月にいなかったっけ?月にいて、目の前のヴィクターに向かって行って… ――ヴィクターは!? 即座に、今度は睨め付ける様に見回す。が、2mを超えるような、それらしい人影は見当たらない。 また、辺りの連中の様子を見るに、体調を著しく損なっている者は居ないようだ。 ――エネルギードレイン!!まずい、そう言えば…! 視線を移し、自分の状態を確かめる。手を見れば、肌は見慣れた色をしていた。力が沸き上がって来る様子も無い。 いつの間にか、いわゆる‘小康状態’に戻ったようだ。 それを確認すると、カズキは一先ず安堵の息を吐いた。 「ちょっと、聞いてるの!?」 ルイズの怒声。顔を向けると、改めてその美貌が目に映る。 桃色がかったブロンドの髪に、透き通るような白い肌。鳶色をした綺麗な瞳がこちらを睨んでいた。 「…あ、あのー」 ここはドコなんだ、と続けようとした、そんなカズキの言葉を余所に、あー、もう、とつぶやくと、ルイズは同級の方へ向き直り 「ミスタ・コルベール!」 「なんだね。ミス・ヴァリエール」 人垣の中から、頭頂部がやたらと寂しい中年男性が出てくる。 眼鏡をかけ、落ち着いた物腰だが、黒いローブに身を包み、その手には大きな木の杖が握られていた。 大真面目に変な格好をしている連中を見てきたカズキは、割とすんなりその異様さを受け入れていた。 「あの、お願いします!もう一度召喚させて下さい!」 召喚?普段聞きなれぬ言葉に、カズキは疑問符を浮かべた。 懇願するルイズに対し、コルベールと呼ばれた男性は首から上を横に振りながら 「それはできない」 「どうしてですか!」 「決まりだよ。二年生に進級する際、君たちは『使い魔』を召喚する。君も承知しているだろう?」 ぐ、とルイズは詰まる。それが成せねば退学。それ故に、この召喚の儀式には誰よりも重い気持ちで臨んでいた。 「それによって現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。 一度呼び出した『使い魔』は変更することはできない。何故なら、春の使い魔召喚は神聖な儀式だからね。 好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかない」 憂いを含んだ声で、コルベールはルイズにそう諭した。 「でも、平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」 その悲痛交じりの一言に、周りの同級達がどっと笑い出した。 ルイズは連中を睨みつけるが、それでも笑いは止まることはない。その様子に、傍観していたカズキは思わず眉をひそめた。 なんだあれ。女の子をよってたかって笑うなんて。 その原因は、他ならぬカズキにもあるのだが…その考えには至らなかった。ルイズとコルベールを交互に見ては それにしても、なんなんだこの人達。よくわからない格好で、よくわからないことを話している。 召喚?使い魔?儀式?なにがなんだか、わからない。 ここは結局何処なんだろう。ヴィクターはどうなったんだ。俺は何故、こんな所で寝てたんだ? 改めて辺りに注意を向けると、どうやら自分は草原に寝ているようだ。月から草原?首を傾げる。 「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。彼はただの平民かも知れないが、呼び出された以上、君の『使い魔』にならなければならない。 古今東西、人を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。 彼には、君の使い魔になってもらわなくてはな」 カズキを指して、コルベールはルイズにそう勧告した。肩をがくりと落とす。 「そんな…」 「さて、では、儀式を続けなさい」 「えー…彼と?」 「もちろんそうだ。早く。次の授業が始まってしまうじゃないか。君は召喚にどれだけ時間をかけたと思ってるんだね? 何回も何回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ」 周囲の連中から、そうだそうだ、と野次が飛んだ。ルイズは困惑した顔をカズキに向ける。 「…ねえ」 ルイズはカズキの正面に屈みながら、声をかける。 「えーと」 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 カズキの言葉を遮り、嘆息。やがて諦めたように瞼を閉じ、手に持った杖をカズキの前に掲げる。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 朗々と語り出す。 ふーん、この子はルイズっていうのか。 カズキはどこかズレたことを考えながら、いきなり名乗った少女の口から紡ぎ出される言葉を聞いていた。 長すぎる後半部分はほとんど覚えられなかった。 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 呪文のような言葉が連なる。やがてそれも終われば、ルイズは杖をカズキの額に置き、後にずい、と身を乗り出して―― 「へ?」 次第にその顔が、唇が近づいてくる。 「い、いや。ちょ…」 思わず避けようとしたら、いきなり手で頭を掴まれる。そのまま成すすべも無く、唇が重ねられた。 カズキはわけがわからなくなった。唇の感触が、柔らかさが脳髄に叩き込まれる。次いで動悸が早まった。 心が乱れている中、とにもかくにも、斗貴子さんごめんなさいと、何度も何度も謝った。 やがて唇が離されれば、ルイズは頬を染めながら 「…終わりました」 言うなりすっくと立ち上がる。どこか照れた様子が可愛げに思えたが、問題はそれより 「な、なにすんだいきなり!」 口元を押さえ、顔を真っ赤にしながら抗議の声を挙げる。脳裏に浮かぶのは本気で怒った時の斗貴子の顔であった。 しかし、そんなカズキをさらりと無視し、ルイズはコルベールへ向き直る。 「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」 嬉しそうにコルベールは肯いた。これでルイズの進級は約束されたようなものだ。 「相手がただの平民だから『契約』できたんだよ」 「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんかできないって」 何人かの生徒が笑いながら言った。 なんなんだ一体。契約って、今のキスのことなのか?俺はなんの契約をしちゃったんだ? 理解の追いつかないカズキとは対照的に、ルイズは顔を真っ赤にしながら、連中を睨みつけ 「バカにしないで!わたしだって、たまにはうまくいくわよ!」 「ほんとにたまによね。ゼロのルイズ」 見事な巻き髪とそばかすを持った女の子が、ルイズをあざ笑った。 「ミスタ・コルベール!『洪水』のモンモランシーが私を侮辱しました!」 「誰が『洪水』ですって!わたしは『香水』のモンモランシーよ!」 「あんた子供の頃、洪水みたいなおねしょしてたって話じゃない。『洪水』の方がお似合いよ!」 「よくも言ってくれたわね!ゼロのルイズ!ゼロのくせに…!」 「こらこら、貴族はお互いを尊重しあうものだ」 いきなり諍い始めた二人を、コルベールが宥める。もはやすっかり置いてけぼりなカズキだったが、その時―― 「――!?」 カズキの肉体は、強烈に熱を帯び始めた。今頃キスで脳が沸いたとか、そんな話ではない。 脳天から足先まで、熱気が体中を渦巻いている。行き場を無くした力の奔流が、暴れ狂っているようだ。 「あ、熱い…!なんだこれ!なに、したんだよ…!」 混乱が極まる。動悸の高鳴りが、耳に響く。 「うるさいわね。使い魔のルーンが刻まれてるだけよ。静かになさい」 突き放した声が届く。ルーン?なんだそれ。 ――ドクン 動悸が、聞きたくないものへと変質する。 その音は、カズキだけでなく、ルイズにも聞こえたようだ。 「…なに?今の」 ――ドクン、ドクン、ドクン! 脈動が響く。力の奔流は未だ収まらず、その未知の異物に抗うよう、カズキに植えつけられた‘力’が目を覚ます。 ――まずい!まずいまずい!! 「――!!」 何処でも良い。とにかくこの場を離れよう、と立ち上がった途端。 カズキはその髪を黒から蛍火へ。肌を黄色から赤銅へ。そして、身体からプレッシャーを発し始めた。 ルイズの、コルベールの、周りの同級生たちの目が見開かれる。 突然の変貌に、そのプレッシャーに、言葉を無くし佇むばかり。 否。コルベールだけは、その異様さに、圧されながらもしかし、油断無く杖を構え、ルイズの傍へ寄ろうと足を運ぶ。 ――止まれ!止まれ!止まれ!! 胸を掴み、歯を食いしばり、必死に念じる。力がぶつかり合い、肉体が悲鳴を挙げる。 そのうちに、拮抗するそれが外へ漏れ、カズキの周囲に紫電を光らせた。 プレッシャーに当てられていたルイズは、思わず呻き、後ずさる。 やがて、どちらが征したのか。カズキの肉体は、左手から徐々に元の色を取り戻し、次第にプレッシャーも収まって行った。 召喚時と同じ容貌に戻れば、力のうねりも収まったか。大きく息を吐き、へたっと座り込んでしまう。 今のは一体なんだったのか。身体に異常がないか、まずは手を覗き込み… 「……?」 なんだこれ。変なミミズ腫れができてら。 それは、左手の甲に突如浮かび上がっていた。まるで記号の羅列のようにも見える。 気のせいか、仄かに輝いているようにも見えた。今のでできたのだろうか? 「な、なんだ今の?姿が一瞬変わったぞ!」 ハッとして、喉を鳴らす。カズキは恐る恐る、先刻と同じ動きで辺りを見回した。 果たして其処には、脳裏に描いた惨状ではなく、どこか怯えを含んだ目で自分を見る同級生の顔が並ぶ。中には腰を抜かした者もいるようだ。 それに一抹の寂しさを感じながら、カズキは安堵した。 「風の魔法?稲光も走っていたわ!」 「だけど杖を持ってないし、詠唱だって聞こえなかったぞ!」 そんな言葉が生徒間で飛び交う。そのうち、誰かが発した言葉。 「ひょっとして、先住魔法じゃないのか!?」 「まさか…エルフ!?」 その一言に、皆が一斉にカズキに目を向けた。正確には、その顔に。 「エルフではない。見たまえ。耳が我々と同じだろう?」 皆を制するのは、コルベール。穏やかな調子だが、警戒を緩めず、こちらへ近づいてくる。 「そういやそうだな。やっぱ普通の平民だ」 「まぁ、なんたってゼロのルイズの使い魔だからな。契約の時にあれくらいはやるだろうさ」 そのうちに、それもそうだな、と何人かが笑い出す。いくら異様な契約風景とはいえ、ルイズならばあるいは、という思考回路のようだ。 「とにもかくにも、契約おめでとう、ミス・ヴァリエール」 「あ、ありがとうございます…」 ルイズに向けて賛辞を送れば、カズキの手の甲に着目し 「ふむ…珍しいルーンだな。微かに発光しているとは」 するとどこからかメモ用紙を取り出し、さらさらとスケッチする。どうやら警戒そのものは解いたようだ。 「……ふぅむ?」 何が腑に落ちないのか、眉を顰める。が、すぐさま踵を返し 「…まぁいい。それじゃあ皆、教室に戻るぞ」 そう周囲の連中に告げた後のコルベールに、カズキは思わず凝視してしまった。 浮いたのだ、その場で。ふわりと。 そのままぷかぷか中空へと浮いていくのを目で追う内に、周りの少年、少女たちもふわりふわり、と浮き始める。 カズキは口をあんぐりと開け、その光景に見入っていた。 なんだあれ!ヴィクターの言ってた飛行能力!?でも、どう見たって普通の人間だよなぁ…? 浮かんだ連中は、城のような石造りの建物へ向かって飛んでいった。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ、フライはおろか、レビテーションさえまともにできないんだぜ」 「その平民の使い魔、あんたにはお似合いよ!」 口々に笑いながら、飛んでいく生徒たち。後に残されたのは、ルイズとカズキだけになった。 まるで嵐に遭った後のような心境で、呆然とするカズキに 「あんた、なんなのよ!」 ルイズは思い切り怒鳴った。 「いや、なんなのって言われても。それより、ココは一体どこで、なんでオレはココにいるんだ?オレは一体、どうなったんだ?」 「…ったく、どこの田舎から来たのか知らないけど、教えてあげるわ。 トリステイン。そしてここはかの高名なトリステイン魔法学院よ。名前くらいは聞いたことあるでしょ?」 「全然」 「…あんた、どこの僻地から来たの?」 僻地といわれても…とカズキは頬を掻いた。自分が最後に居た場所といえば…そのまま上を、空を指して 「月から?」 なんて事を言い出すもんだから、ルイズは静かにキレた。 「真面目にやってくれる?」 「あ、うそうそ。日本から来たんだけど」 それにしても、ここの人間は顔立ちが外国人みたいだけど、皆日本語が流暢だな、と今更ながらにそう思う。 「ニホン?聞いたことないわね。とりあえず、行くわよ。次の授業も始まっちゃうし。着いてきなさい」 すたすたと先ほど皆が飛んでいった方へ歩き出すルイズ。慌ててカズキも立ち上がり 「ちょ、待ってくれ!そもそも、なんでオレはこんなとこに寝てたんだ?」 「そんなの、わたしが召喚したからに決まってるじゃない」 「召喚?召喚ってあれだよな。モンスターがぶわーって飛び出す魔法。そんで、オレを君が?」 「そうよ。そして、あんたはわたしの使い魔になった。君じゃなくて、ご主人様って呼びなさいよね それに言葉遣いも直すこと。平民が、貴族相手にそんな話し方じゃ不敬扱いよ」 それだけ聞くと、やがてカズキは押し黙った。 魔法?召喚?じゃあオレは、本当に月からこんな場所まで飛ばされたって言うのか… ヴィクターは、どうなったんだろうか…一緒に居ないところを見るに、どうやら召喚されたのは自分だけなのだろうけど。 つまりヴィクターは、今も独り、月に居ることになる。そしてオレは… 「なぁ、戻す魔法ってないのか?呼ぶことができたんなら、戻すこともできるんだろ?あのサモン…なんだっけ」 「そんなのないわよ。『サモン・サーヴァント』は使い魔を呼ぶためだけの魔法だもの。 それに、そんなことできたらとっくにやってるわよ」 「んな無責任な」 そうぼやき、再び黙る。戻って、どうするつもりだ。 生物の存在を許さない死の空間に戻って、また果て無き死闘を繰り広げようとでも言うのか。 否。自分が戻りたいのは、あの場所…妹や友人たち、そして斗貴子さんの居る場所だ。 そして、いったん眠って、人間へ戻り、いずれあの男と決着をつける――だが。 オレが戻れば、ヴィクターは? ヴィクターは今も、あの死の空間に独りきり。そして自分だけがのうのうと、皆の居る場所へ戻って良いものか。 アレクサンドリアの研究成果でも十分な再人間化は果たせず、あのまま暴れる錬金の魔人を、地球上に置いておくことは不可能。 故に月まで、自分ごと飛んで行ったわけだが。その自分が、あの男と同じが如き境遇の自分が… そう思うと、カズキはできるかどうかもわからぬそれにためらいを感じた。 そう、だからオレは… 先ほどの城のような建物。魔法学院の門まで来たところで、カズキは不意に 「すまないけどオレ、そろそろ行かないと」 「はぁ?何処へ行こうって言うのよ。あんたはもうわたしの使い魔なんだから、これからわたしにつき従うのよ」 「そんなことしてる場合じゃないんだ。詳しくは言えないけど、オレはここには居られない。居たらみんなに迷惑がかかるんだよ」 「もう十分迷惑してるわよ。ったく、なんであんたみたいなのが召喚されちゃうわけ?」 「それじゃあ」 「ダメよ。いいから着いてきなさい。そもそも、あんたに行く当てなんかないでしょ?」 「当てはないけど、行かなくちゃ。誰も居ないところじゃないと、意味がないんだ」 そう、カズキは誰も居ないところへ行かなくてはならない。そこで、自らの命を絶たなくてはならないのだ。 普通に命を絶っても、蘇ってしまうのは既に経験済み。ならば、誰も居ないところで、誰も来ないところで。 「そんなの知らないわよ。いいから、とっとと着いて来る!」 「わ!ちょ…!」 言うなり、カズキの腕を引っ掴んで学院の門をくぐるルイズ。 無理に引き剥がせば良いものを、しかしカズキは、何故かそれができず。 トリステイン魔法学院へと、足を運ぶのだった。 前ページ次ページ使い魔の達人
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前ページ次ページゼロの最初の人 「オールド・オスマン。王軍から、現時点での今年度卒業見込生徒の総数と、ランク、系統ごとの人数を書類にまとめ、今月のティワズの週ラーグの曜日までに報告するようにとのことです」 「ご苦労。明後日までには早馬を手配して王宮に届けさせるようにしよう。4、5日中には届くであろうから、安心してくれ」 魔法でペンをいくつも扱い、浮かんだ書類をどんどんと処理していきながらオスマンは答える。 目で書類を追わず、視線はしっかりとロングビルに合わせていた。 かつてロングビルが秘書の職に就いたころ。初めてこの異常な光景を目の当たりに彼女は、どうすればこのようなことが出来るか聞いたことがある。 彼いわく、レビューションと遠見の魔法の応用であり、練習すれば誰にでも出来る事。らしい。 それを聞いたロングビルは、使えれば何処かで役に立つかもしれないと、こっそり練習した。 しかしながら「複数のペンと複数の書類を浮かし、複数の視界を展開、なおかつそこから得る情報を同時に処理しながら、複数のペンを別々に動かし正確に文字を書く」など、常人にできるはずはない。 ロングビルは浮かんだペンを複数同時に動かすことはなんとかできたが、正確に、しかも同時に文字を書くなんてことは出来ず、すぐに諦めた。 そんな昔のことを思い出し、この人はやはりすごい人だ。と、微笑みながらロングビルがさらに言った。 「心配なぞしておりませんよ。もしどうしてもしなければいけないのならば、その相手は貴方ではなく早馬でしょうね」 「ほっほ。仕事は正確でしかも速い。おまけに舌まで達者とは、ワシはいい秘書を雇ったもんじゃのう。」 そんな談笑をしている間に、オスマンが動かすペンの動きが止まり、書類が束にまとめられ、ポンと机に置かれた。 「さて……もう今日やらねばならんことは終わってしまったの。 むぅ、まだこんな時間か…………そうじゃのう、ちとばかり早いが仕事は終わりじゃ。自室へ戻っても構わんぞ」 「それでは、お疲れ様でした。お先に失礼させていただきます」 「ああ、ご苦労じゃった」 オスマンはそう言って、ロングビルを見送った後、窓の方向に向き直り物憂げに空を見つめる。 ここはトリステイン魔法学校学院長室。そこには数々の並行世界で不埒な行為 ―俗にいうセクハラ― を行っていた変態爺とは全く違う「大賢者オールド・オスマン」の姿があった。 彼が成し遂げた偉業は数知れない。そして偉業は人々に伝わって伝説となる。 人が、国が、彼に救うたび伝説は増えていく。 さらに伝説は人に伝わると尾ひれを付け泳ぎだす。そうしてその総数は両手両足ではまったく足りないほどになった。 曰く、四大系統を全て修めた。 曰く、300年以上の時を生きている。 曰く、彼の出陣は、終戦の号砲である。 彼の伝説の中には虚実のものもある。しかしそれこそ「彼ならこれでも出来る」という周りの評価の高さを表しているだろう。 彼は、自身のもつその強大な力で祖国トリステインの危機を幾度も救った。 当然王宮の貴族らは彼に褒美を取らせようと考えたが、彼の素性に関しては謎な部分が多かったため、連絡がつかず、その功績に対し見合った報酬を与えることができずにいた。 しかし、彼の齢が200を超えしばらく経ったころ、ある日、彼自ら王宮に姿を現し当時の国王フィリップ3世にこう言った。 「これから、この杖は未来を担う若人を導くために振るいたい。このわしをトリステイン魔法学院の学院長にしてくだされ」 突然のことだったが、メリットはあれどデメリットの見つからないその提案に、フィリップ3世は一も二もなく首肯する。 そうして、彼はトリステイン魔法学校の学院長に就任することが決定し、その知らせはすぐ学院にも届いた。 ハルケギニア一の実力を持つとも言われるメイジが、学院長に就任することに対して、反対するような教員、生徒がいるはずもなく、学院の貴族たちは一様にオスマンを歓迎した。 学院の平民たちは、最初こそ萎縮したものの、平民だからといって差別せず、気さくに話しかけてくるオスマンに対し好感を抱いた。そして彼が学院長になることを歓迎した。 そして、一般的な学院長職の寿命としては長すぎるほどの間、オスマンは学院長であり続け、今現在も学院長職を努めている。 人望も厚く、学院に関する細々とした事務処理にも手を抜かず、ミスを犯すこともない。 そんなオスマンをわざわざ学院長のポストから下ろす道理もなかったため、オスマンは何十代もの生徒が卒業するのを今も見届けている。 しかしながら、元来オスマンの性格は、お調子者で助平。そんな彼が、どうしてこのような偉大な人物となったのか。 トマトが何故赤くなったかを、気にするものが稀有なように。その理由を気にするもの ―少なくとも今のハルケギニアには― はおらず。 必然的に、その理由を知る者はいない。 所変わって同時刻。ヴェストリの広場、ここでは春の使い魔召喚の儀式が行われていた。 ほとんどの生徒が使い魔を召喚し終え、召喚した使い魔との交流を深めていた中。未だに召喚が成功していない生徒が一人。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。トリステイン王国有数の大貴族であるヴァリエール家の第三女である。 少女は集中する。自分の魔力を、そして自分の意識を、杖に集め呪文を唱える。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……五つの力を司るペンタゴンよ。我の運命に従いし、使い魔を召還せよ!」 魔力のこめられた詠唱は、爆発を生み出し地面に大きなクレーターを作った。副産物は他生徒からの中傷の言葉。 「おいおい!ゼロのルイズはサモン・サーヴァントでも爆発させるのかよ!」 「万一、いや億一に成功してもあの爆発じゃ使い魔死んでんじゃねーか?」 「ハハハ!!違いないな!!」 無慈悲な言葉の矢がルイズに浴びせかけられる。ルイズは奥歯を噛み締め、悔しさを飲み込んだ。 絶対に、絶対に絶対に見返してやる。神聖で強力で、そして美しい私だけの使い魔を召喚してみせる。私をバカにしたやつらを見返してやる。 ルイズが呪文を唱えようと今一度杖を振り上げた。そのとき、監督教師のコルベールがそれを制止した。 「ミス・ヴァリエール、待ってください!」 ルイズが苛立ちを隠そうともせず答える。 「なんですか?!まだ授業の時間はあるでしょう?!」 「違います!そこを見てください!」 言うと同時にコルベールは指を指す。その先は先ほどルイズが"サモン・サーヴァント"で作ったクレーターがちょうどあるあたり。そこは爆発で巻き上げられた土煙に覆われていたが、かすかに中の様子が垣間見れた。そこには確かに黒い影があった。 「成功です!あなたの!ミス・ヴァリエールの使い魔が召喚されたのです!」 目の前の少女の苦労を少なからず知る教師が興奮しながら言う。 しかしながら、先ほどまで負の方向へ大きく傾いていた少女の精神に対して、正の方向へ強く心を揺るその情報はあまりに強烈過ぎたらしく、 念願の使い魔召喚、魔法の成功だというのにただただ、口をパクパクとするのみで少女の思考は停止した。 只、ルイズほどの衝撃を受けないにしろ他の少年少女たちにも目の前の状況は大きなショックであったらしく、誰も口を開けない。そんな中、青い風龍を召喚した青髪の少女が小さく何かを呟いた。 「ウィンド・ブレイク」その風の呪文で、クレーター近辺を覆っていた土煙が吹き飛ぶ。 ルイズはその少女に小さく、でもありがとうの思いをしっかりこめて一礼。そしてすぐに影 ―煙は晴れていたが外皮が黒い生物なのか正確な形が判断できない― に向かって駆ける。 駆けながらルイズは考える。 よく姿がわからないけど、人間と同程度には大きいわ!きっと幻獣よね、しかもあんなに大きいんだもの!あの青髪の子が召喚した風龍には劣るだろうけど、ツェルプストーのサラマンダー同等程度には強力に違いないわ! これでみんなを見返せる!これで姉さまに、お父さまに、お母さまに褒めてもらえる! きっと、ルイズはこのとき興奮で盲目になっていたのだろう。そうでなければ駆け寄る途中に自身の召喚したモノの正体に気付いたはずだ。 そしてルイズはソレにあと5メートルというとき、やっと気付いた。興奮していた精神が急激に冷やされる。あまりのことに再び声を失った。 何秒か、何分か、時間が過ぎた時やっとのことでルイズは一声もらす。 「…………人間?」 ルイズは近づいて観察する。年は17、18才といった所だろう。造形が整っており知性を感じさせる顔つきだ。 しかし、その青年は、サモン・サーヴァントで召喚された、ということを差し引いたとしても、明らかに異質に感じられた。 その原因の全ては青年の着ていた衣服である。貴族のものとは明らかに違う作りのローブのような妙ちくりんな黒いものを羽織り、その中に橙色の如何とも形容しがたい服を着ていた。靴は大きな黒いもので、髪の色もまた―このあたりでは珍しく―黒だった。 両手には中の服と同じ橙の手袋がはめられて、その左手には……"杖のようなもの"が握られていた。 また男は、ルイズ達生徒やコルベールの居る方向に対し背を向けた状態で、膝を軽く抱えたようにして寝ていた。 つまり、黒い面しか彼女らには見えておらず、見慣れぬ服装のこともあったため、黒い大きな幻獣と勘違いしたわけだ。 そんなとき男がゴロンと寝がえりをうった。顔や首、袖口に見える手首。そんな"人"の部分が生徒の方向を向く。 数人の生徒が目の前の事実を理解した。ヒソヒソとした話し声。その声は次第に大きなものになり、ルイズに向けられる罵言へと姿を変える。 「なんだあれ!ヒトじゃねぇか!」 「ゼロのルイズの使い魔は人間!こりゃ傑作だ!!」 それに混じってスースー、グーグーと規則正しい呼吸音が聞こえる。 それがルイズの精神を逆なでした。 「こ、こここ、この!!起きなさいよ!!!!」 杖を空に向け怒りを乗せた呪文を唱える。上空に巨大な爆発が生まれた。その衝撃で周りの生徒の使い魔たちの数匹が暴れだす。 誰かの蛇が、誰かカラスを飲み込む寸前で、空気の槌に吹き飛ばされる。 巨大モグラがやたらに穴を掘り、その中に使い魔と人間が何人か落ちてしまう。 寝ているところを起こされてしまい不機嫌なサラマンダーがめちゃくちゃに炎を吐く。 そんな阿鼻叫喚の騒ぎをなんとか収めた生徒たちが、ルイズをにらんで怒鳴るように声をあげた。 しかしルイズは振り向かない。肩で息をしながら使い魔をじっと見ていた。 なぜなら、そこでようやく召喚した彼が目を覚まし、起きあがったからだ。 目を覚ました彼は「くぁあ」と大きな欠伸をしながら伸びたあと、目をこすりながらゆっくりとあたりを見渡す。 その動きをコルベールは警戒しながら見つめる。使い魔はコントラスト・サーヴァントで契約するまでは、主に危害を加える恐れがある。召喚されたのがヒトであったとしてもそれは変わらない。 ルイズはというと、そんな緩慢な動きに内心イライラしていたが、何も言うことがなかった。 いや、正確には先ほどの怒り感情に身を任せ荒々しく唱えた呪文のせいで、いまだに息が荒れていた為、言えなかった。という方が正しいだろう。 その青年にそんなルイズの心象を知る由もなく、しばらく彼はそうしていたが、やがてルイズに目線を合わせ溜息をつき、こう言った。 「そこのおぬし。何故わしはここにおるのかのぅ?」 前ページ次ページゼロの最初の人
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前ページ次ページ爆炎の使い魔 どんな世界でも朝というものはやってくる。 ここハルキゲニアとて例外ではない。 朝日が部屋に差込み、ヒロは眼を覚ました。 「朝か、・・・・そういえば召喚されたのだったな。」 どうやら夢ではなかったようだ。 ベッドのほうを見ればルイズが寝息を立てている。 見れば見るほど子供のようだ。10台、それも10代前半にしか見えない。まあ、見えないだけかもしれないが。 さて、まだ2日目だが、この世界がどんなものなのか、自分はまだ良くわかっていない。 ルイズは授業があるといっていた。ならばとりあえずは情報収集でもするか。と考えた。 「ん・・・」 ルイズが寝返りをうつ。 そろそろ起こしてやるか。別に小間使いになったわけではないが、まあこれくらいはいいだろう。 自分の甘さに疑問を浮かべつつもヒロはルイズを起こした。 「ルイズよ、起きろ。朝だぞ」 「んあ・・そう?・・・・って誰よあんた!」 「なんだ、昨日のことも忘れてしまったのか?」 「ああ、使い魔ね。そうか、昨日召喚したんだっけ」 「とりあえず、今日は授業とやらがあるのだろう?早く起きたほうがいい。私も道案内がてらこの建物の中を見て回りたいからな」 「服、着せ・・・」 着せて、と言おうとしてやめた。 昨日の夜、この使い魔は言ったではないか。使い魔にはなるが、小間使いになった憶えはない。と 服を着せて、など言おうものなら容赦なく蹴られるかされそうだ。 「使い魔のくせに・・・」 ルイズはぼそっともらす。 「何か言ったか?」 「な、なんでもないわよ!」 仕方なく、ルイズはいそいそとクローゼットから衣類を取り出し着替えた。 「あんたは着替えなくていいの?」 「何、とりあえず服の変えはいくつかある。あとで洗濯でもするさ」 「ふうん」 ルイズと部屋を出ると他にもドアが並んでいる。 どうやら全寮制の学園のようだ。つまり隣の部屋にもルイズと同じ生徒がいるということだろう。 するとそのドアの1つが開き、中から赤い髪の少女が現れた。ルイズよりも背が高く褐色の肌をしている。そして、 (無駄にでかい胸だな) ヒロが受けた第一印象はそんなだった。 「おはよう。ルイズ」 ルイズは嫌そうな顔を隠しもせずに挨拶をする。 「おはよう。キュルケ」 「あなたの使い魔ってそれ?」 キュルケはヒロを指差して言った。 一方それ呼ばわりされたヒロは特に気にした風もなない。 「へぇ。本当に人間なのね。あたしほどじゃないけどまあまあの美人じゃない。でも平民じゃどうしようもないわね」 キュルケは珍しそうにヒロの顔をじろじろ見る。 昨日から良く聞く平民という言葉、この世界はそれだけ階級制度があるということだろうか。 だとすれば異種族はまだ見かけてないが、もしいたら大変そうだ、とヒロは思う。 もし、あの新生シンバ帝国のように人間至上主義だったとしたら。 (確実に追われる身だな。ルイズの使い魔ということで回避できるかもしれんが) キュルケは視線をルイズに戻す。 「それにしても、サモンサーヴァントで平民を呼び出しちゃうなんて、貴方らしいわ、流石は『ゼロ』のルイズね!」 ルイズの顔が真っ赤になりだす。 「うるさいわね!」 「あたしも昨日使い魔を召喚したわ。誰かさんと違って一発で成功しちゃったわよ。」 「あっそ」 「どうせ使い魔にするなら、こういうのにしておきなさいよ。フレイム~」 キュルケが得意げに呼び出すとキュルケの部屋から真っ赤で巨大なトカゲが姿を現した。 「ふむ、サラマンダーか」 「あら、あなたサラマンダーを見たことあるの?」 「まあな」 ヒロがサラマンダーを見る。サラマンダーはヒロと目が合った瞬間に驚愕の表情をする。 同じ火の属性同士だからだろうか、それとも野生動物の本能か。明らかに自分よりも格上のヒロを見て、自分が格下なのだと感じるフレイム。 それに対し、特に興味があるわけでもないヒロ。 それに気がついてないのかキュルケは自慢を始める。 「それなら話が早いわ!見て、この尻尾。ここまで大きくて鮮やかな炎の尻尾は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ! ブランドものなのよ~。好事家に見せたらまず値段なんてつかないわね」 「そりゃよかったわね・・・」 表情に悔しさが出ているルイズ。 「素敵でしょ?あたしの属性である『火』にぴったりなの」 キュルケは得意げに胸を張り、ルイズも負けじと胸を張るが、サイズの違いというものは残酷であった。 そんな2人をヒロは冷めた目で見る。 (まったく、ルイズはルイズで負けず嫌い、キュルケとかいったかこのデカ胸は、こいつもこいつでルイズで遊んでいるな。・・・ハァ) ヒロはやれやれと首を振る。 そこでキュルケはヒロのほうに向く。 「そういえば、あなた、お名前は?」 「ヒロだ」 「そう、ヒロね。憶えたわよ。じゃあお先に失礼~」 そう言うとキュルケは髪をかきあげて去っていった、フレイムがその後をちょこちょこついていっている。時折こちらを振り返りながら。 キュルケが視界から消えるとルイズは拳を握り、悔しそうな声を上げる。 「キーー!何なのあの女!自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって!!」 「たかが火蜥蜴1匹、気にするほどのことでもなかろう」 「気にするわよ!メイジの実力をはかるには使い魔を見ろって言われるくらいなんだから! 何であの女がサラマンダーで、私があんたなのよ!」 「よかったではないか」 「何がよ!」 「たかが火蜥蜴1匹なら私のほうがはるかに上だ、私なら1秒もあれば17体に解体している(加速とサウザンドキルを使えばな)」 なんてことを言うのだろうかこの使い魔は。 「平民のあんたにそんなことできるわけないでしょ!もういいわよ!さっさと授業に行くわよ!」 ルイズはどすどすとわざと足音を立てて行ってしまった。 それを見ながら、ヒロはまたもやれやれと首を振る。 「別に嘘を言ったわけではないのだが」 ヒロはそう言うと、口に笑みを浮かべながら、ゆっくりとルイズの後ろを着いていくのだった。 前ページ次ページ爆炎の使い魔
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ルイズが召喚したのは二刀流を使う獣人だった 彼はギーシュと決闘をし、その実戦慣れした剣技で勝利した 勝利した、確かに勝利したんだが、彼はズタボロのボロボロの裸王状態だった それでも彼はルイズの敵に立ち向かう 「こんな奴ルイズ姉者が出るまでもない、このオボロが相手だ!」 彼に対峙するのは、ガリア王ジョゼフが召喚した使い魔 「きえな、このヤムチャさまにぶっとばされないうちに」 そしてロマリア教皇は世界扉を開き、伝説の使い魔を次々と異世界から召喚する 「俺は琉球空手の大竹だ」(押忍!空手部) 「この富樫と虎丸に任せんか~い!」(魁!男塾) 「ナイトキッズの中里だ」(頭文字D) 「俺はガンギブソン」(特警ジャンパーソン) 「私はあやねよ!」(ながされて藍蘭島) 「今泉刑事です」(古畑任三郎) 「天光寺だ」(コータローまかりとおる) 「弟の良三です」(美味しんぼ) ルイズ「なんなのよ~~!この負け犬かませ犬は~~~!!!」 「あの…『ゼロの使い魔』のワルドって者ですが…」
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前ページ次ページ魔物使いが使い魔 「おい人間だ!ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」 「平民?どう考えても乞食じゃないか!」 「ゼロのルイズ、その辺の乞食を連れてくるなよ!」 ルイズの召喚したものが人間だとわかるといなや 口々に罵倒をはじめる同級生達 ルイズは「ち、違うわよ!ちょっと失敗しただけよ!」 と反論するが誰も耳を貸さない。 ルイズはそんな同級生達を忌々しげに睨みつけたあと 教師であるコルベールに食ってかかった。 「ミスタ・コルベール、もう一度召喚させてください!」 「いけません、ミス・ヴァリエール 使い魔召喚の儀式は神聖なものです。 例外は認められません。」 「で、でも平民…どころかどう見ても乞食じゃないですか! こ、こんなのってこんなのって…!」 「確かに人間を召還したのは例のないことかも知れません ですが大丈夫ですよ、ミス・ヴァリエール 召喚に応じた使い魔は主人にとって必ず良い働きを してくれるのです。これには例外は絶対にありません。 さぁ早くコントラクト・サーヴァントを」 「で…でも…でも」 傍から見ればとてつもない人道無視な意見を 言いあってるような気がするが ルイズは渋々とうなずくと倒れて目を回している 「ソレ」のすぐ傍まで来た。 「あんた…感謝しなさいよ、普通は貴族にこんなことされるのなんて 一生ないんだからね。」 そして顎を持ち上げて顔をもちあげる。 その時ルイズははじめて「ソレ」の顔を見た。 (わ… い、意外と顔立ちいいわね…この平民 遠くからは泥と煤で汚れててわかんなかったけど これならコントラクト・サーヴァントもそれほど辛くも… な、何をいっているのかしら貴族の私が平民n(以下略)) 何やら小言でブツブツ言ったかと思うと 何かを振り払うかのように頭をブンブンと振り回す。 やがて気を取り直したのか、ゆっくりと深呼吸をし 「5つの力を持つペンタゴンよ、その力もて我の使い魔となせ。」 コントラクト・サーヴァント即ち使い魔契約の呪文をとなえる。 そして ルイズの唇が「ソレ」の唇と触れた。 ぷちゅ (ん、何だろうこの感じ…) その時ルイズは不思議な感覚に襲われた。 間違いなく今自分は見ず知らずの平民の男と初めて会ったはずなのに しかも生まれて初めてのふぁーすときすなのにも関わらず なぜかかつて出会ったことのある感覚 そしてなぜか懐かしさを感じた。 唇をはなす。 「うわ!痛っ!イタタタタタタタ!!!」 「ソレ」ことリュカは声をあげた。 リュカ「こ、ここは?一体」 ルイズ「ようやく気づいたわね! 私はルイズ・フランソワ(以下略)あなたのご主人様よ!」 コルベール先生「おや珍しいルーンだね。ちょっと失礼するよ。」 リュカ「一体なんなんですか!? これは。僕はどうしたんですか。」 コルベール先生「ここはトリステイン魔法学院です、あなたは使い魔(ry」 リュカ「え!?じゃぁ僕は召喚され(ry」 ルイズ「あんたどこの平(ry」 ・・・閑話休題 「…つまり君は僕に使い魔になってくれという訳だね。」 使い魔のルーンが刻まれ暫くは思いもよらない痛さで 我を忘れていたリュカであったが、それが収まると 今の自分の状況に愕然とした。 まったく自分の知らない土地 知らない風土 そして彼の見たことのないモンスター達 目を離すと完全に自分の常識とは違う世界にいるのである。 何よりも不可解なのは目の前にいる女の子で 突然自分を呼び出しておいて使い魔になれという あまりにも理不尽な要求であった。 「そうよ、あんたは私にコントラクト・サーヴァントで 召喚されたのよ!そもそも平民が貴族に、しかも由緒正しい ヴァリエール家に仕えることが出来るなんて滅多にないのよ。 感謝しなさい。」 ふふん、とルイズはそれほどない胸をはって答えた。 どうやら完璧に自分がやっていることが 正しいと信じて疑っていないらしい (まるで昔のヘンリーみたいだなぁ) リュカは心の中で苦笑した。 今は遠い国で国王補佐をやっている彼の親友は 誘拐紛いのことをやっておきながら平然としている この少女にあったら何と言うだろうか。 そんなことを考えると今の自分のおかえた状況にも関わらず 自然と笑みが漏れてくる。 「あんた、人が話してるのに笑うなんてどういうつもりよ!」 「あっごめんごめん」 とりあえずこの数分間この女の子と話してみてわかったことは ここは、自分が元いた場所から随分と遠くの国に運ばれてきたということ。 この国では魔法を教える学校が存在するということ。 この学校はその国の貴族が集まる名門校で 二年になると行われる使い魔の儀式で この女の子が唱えた呪文に使い召喚の呪文のせいで 自分が突然サラボナからここに召喚されたということだけだ。 後、ルーラが使えなかった。 はっきり言って拉致監禁どころの話ではない。 何しろいきなり呼ばれて使い魔という名の奴隷になれと言っているのである。 しかも既に契約の証とやらのルーンはついている。 無論己の意思とは無関係にである。 普通の人生を送っているであろう人間であれば パニックをおこしても仕方のない状況ではあるのだが (まいったなぁ…奴隷にされるのは始めてじゃないけど どうやってこの場を切りぬけようか。) なぜかリュカは妙に落ち着いている というのは実は以前、これよりもっと酷い手段で拉致され 問答無用で10年もの間文字通りの奴隷として 働かされていた経験をもっていたからであった。 そうであるからこそある程度の理不尽に慣れているし 余裕も出来る。 (とりあえず帰る手段に関しては ゆっくり探そう、それにサラボナに残してきた仲間達なら 必ず僕のことを探してくれるはずだ。) こういう時はあせらずに状況をまず受け入れること。 小さい頃から度々理不尽な目にあってきたリュカの処世術でもあった。 (それにせっかく纏まった時間もとれたことだし プロポーズに関してもゆっくり考えられそうだ。) …前向きの方向が微妙に違う気もするが 「とにかく僕はこの国とは違うところから来たんだ。 だから悪いけどいずれ僕は戻らなきゃいけない。 でもそれまでの間までなら君の使い魔をやろう。 これでいいかい?」 「ばっ馬鹿なこと言わないでよ!使い魔と主人の契約は一生のものなのよ。 勝手なこと言わないでよ!」 リュカからの提案にルイズは強い口調で否定する。 しかし内心ルイズの心の中ではある葛藤が起きていた。 呼び出したのはどこにでもいそうな平民の使い魔 となればこの平民が使い魔契約を解除して(解除できればだが) どこへなりとでも行って 新しい使い魔を呼び出せるのあればそれに越したことはないのである。 しかし… 生まれて初めて成功した魔法で呼び出した使い魔なのだ その点でもこの平民にはルイズはルイズなりに並々ならぬ思いがあったし 何より (なぜかこの平民を見てるとなんかこう…懐かしい気持ちになるのよね…) コントラクト・サーヴァントを成功させて以来 ルイズはこうしてリュカと話しているが 初めてリュカの目を見たときはなんともいい様のない衝撃を受けた。 まるで吸い込まれそうな深い深い黒曜石のような瞳 同時に優しくて暖かくて何かに抱かれているようなそんな不思議な気分にさせられた (ちぃ姉さま…) ルイズはそんな目をしている彼を今は遠くにいる動物好きで病弱の姉を思い浮かべた。 「とっとにかく駄目よ!使い魔はご主人様の言うことに従わなきゃいけないのよ!」 一気にそう捲し立てるルイズ その顔はなぜか真っ赤に染まっていた。 その後ルイズのサモンサーヴァントが 無事に成功したことで授業も終わり解散の時間になった。 「ハハハ!じゃぁな!ゼロのルイズ」 「あいつ未だにフライも使えないんだぜ!」 「おいゼロのルイズ、その乞食といっしょに早く帰るんだな!」 そう言うと生徒達は杖をふって呪文を唱える。 とたんに生徒達の体は浮きあげる空を駆けていく。 生徒達は口々にルイズを嘲い罵りながら学園へと戻っていった。 「もう!なんなのよ!どいつもこいつも!」 ルイズは悪態をつきながら地面を踏んだり蹴ったりしていたが、 やがて落ち着いたのか 「ほら、帰るわよ。早く来なさい。」 「……………」 そう言われたリュカは口をポカンと開けて空を飛んでいく生徒達を見ていた。 リュカとルイズは学院に「徒歩」で戻り そのまま2人はルイズの部屋に直行した。 一般的な平民の家庭で間取りの広い室内 飾り気はないがおそらく名のある職人に作らせたであろう高価な家具の数々、 2~3人が優に寝れる広さのベットには皺一つない清潔なシーツがかけられ 高級な衣装が何着も入っていそうな衣装棚は埃一つなく佇んでいた。 テーブルには見た目冷たそうな水差しと菓子が置かれ 教科書と思わしき書物が何冊も上に置かれていた。 今でこそ友人に王族がいるという奇妙な人脈をもつリュカだが それでも彼は普段は魔物と野宿をして過ごす冒険者である。 だからこそ久方ぶりに見る貴族の部屋というやつには 未だに耐性が出来てないし 目の前の小さな女の子がこんな部屋に一人で住んでいるものと 想像してしまい思わず目を白黒させた。 「…なに驚いてんのよ。言っておくけどね、 わたしたちはまだ学生だから贅沢は出来ないっていうんで これでもまだ質素にしてるほうなのよ。」 普通の何気ない暮らしを送ってる人間からすれば 思わずこめかみにハイキックの2~3発お見舞してやりたくなる台詞であるが、 リュカは気にもせず部屋を見回している。 そしてそのまま窓際まで近づくと空を見る。 「月が…二つ…!」 その通り夜空には赤い月と青い月が二つ寄りそうようにして浮かんでいた。 「なによ、月がふたつあるのは当たり前じゃない。」 ルイズは驚いているリュカにどうしたことかと言わんばかりに 呟くと無視して椅子に座りいつもの日課なのであろう 授業の予習と復習を兼ねて教科書を読み始めた。 ルイズが読書に没頭している間 窓から二つの月を見つめながらリュカは考えた。 先ほどの未知の飛行呪文といい 目の前の二つの月といい もしかしたら自分は全く知らない世界に誘いこまれてしまったのかも知れないと そして思い出す 母マーサも自分達のいた世界とは違う世界に送られてしまったということ。 いくらなんでもここが父の手紙に書いてあった魔界とは思えないが もしかしたらここに母の手がかりがあるかも知れない。 手がかりを掴みたいのは山々だが しかし今の自分には何の手段もない。 死線を潜り抜けた頼もしい仲間達も今はいず 装備も宿屋に置いてきてしまったので今は丸腰だ。 唯一いつも肌身離さず持ち歩いている道具袋には 旅先で手に入れた重要なアイテムや薬草などが入っているが その数は少なく何も知らない異世界でどこまで役に立つのか全く未知数だ。 「頼れる知人も 装備も そして頼れる仲間もいない。 ないない尽くしのゼロの魔物使いか…」 リュカは自嘲するように呟いた。 前ページ次ページ魔物使いが使い魔
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前ページ次ページゼロのミーディアム 何度も失敗した末、ついに使い魔の召喚に成功したかと思われたルイズ。しかし現れたのは まきますか? まきませんか? と、書かれた謎の契約書。 流石に困惑を隠せないルイズだがそれは今回のサモン・サーヴァントを受け持ったコルベールもまた同じだった 「姿を見せる前に契約を求めるなんて…先生、今までにこんなことって…」 「いや、こんな前例は…なんとも面妖な…」 通常サモン・サーヴァントでは使い魔となり得る者が直接呼び出される。 姿を見せずにいきなり契約を迫るケースは未だかつて無いことだ 「あの、先生…やっぱり私、これに契約しなきゃいけないんですか…?」 ルイズは不安を隠せなかった。しかし無理もない。基本的にサモン・サーヴァントにおいて使い魔との契約に二度目は無い。 何者であろうと呼び出した者と契約を結ぶのが掟なのである。失敗する以外にやり直しは許されないのだ。 「ミス・ヴァリエール。先程説明したが春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールの中で侵すことのできない最も神聖な物の一つ。 出てきたものが何であれ例外は認められない… …が、今回ばかりはそうも言ってはられないか…」 険しい顔を崩ししコルベールはため息をついた 「と言うことは…」 「これまでに無い事態の上に得体の知れないことが多すぎる。 儀式のやり直しも認めよう。まあ最終的な判断は君に任せるがね」 「儀式のやり直し…」 確かにこのままコントラクト・サーヴァントを行うのは危険かもしれない。 あまり考えたくないが契約後、凶悪な悪魔を呼び出した末に魂を取らる等の可能性もありえる。 やはりやり直すべきか… 「なんだ?また結局失敗かよ!」 「あんだけ派手にやっといて…さすがゼロのルイズよね!」 「はいはい、ルイズルイズ」 ルイズは周りの好き勝手な物言いに腹が立った (今回は失敗したんじゃないのに!) …そう、儀式は失敗した訳では無い 何者かは確かに自分の呼び掛けに答えた それもこんな特殊な方法で契約を求めてくるような使い魔なのだ、ただ者ではあるまい もしかしたら自分の望んだ強大な力の持持ち主なのかもしれない ――腹は決まった 「いいでしょう、結ぶわ…この契約!」 「良いのだね?一度契約したが最後、後戻りはできないのだよ?」 「ヴァリエール家の三女たる者何が来ようとも後ろは見せません!」 「…わかった、君の意見を尊重しよう」 ルイズは懐から羽ペンを取り出し周りの生徒達を見回す 「見てなさい!アンタ達ををアッと言わせてやるんだから!」 そして「まきます」をに○をつける ――契約は結ばれた 「…何も起こらないじゃないの」 そう、何も起こらなかった。 天が割れ巨大な竜が光臨することもなく 地が裂け荒ぶる巨人が現れることもなく 澄み切った空には鳥が鳴き大地は爽やかな風が草木を揺らしている 肩すかしを食らった気分だ。何かの悪い冗談だと思いたい 「…また失敗なのね」 落胆を隠せないルイズ あれだけ大見得きってこの様とは… また皆の笑い物になるのかと思った矢先―― ドサッ 何かが落ちた音 振り返ってみるとそこには一つの鞄が… ルイズはおろかルイズを見ていた周りの生徒やコルベールすらどこから現れたのか気づかなかった ルイズは突然の鞄の出現に戸惑いを隠せなかった。だが契約をした後に現れたのを見ると… 「これが…私の使い魔?」 見た目は変哲もないただの鞄のようだ 不安ではあるがルイズは鞄に手をかけた。後ろではコルベールが待機し、不測の事態に備えている (何を迷ってるのルイズ?もう後戻りは出来ないのよ!) 自分に言い聞かせそして意を決しついに鞄を開けた!! 「出てきなさい!私の使い魔!!」 ――鞄の中には一人の少女が眠っていた 「これが私の使い魔…」 その少女は流れるような銀色の髪に雪のような白い肌、 服は黒を基調とした優雅なドレスを纏い静かに横たわっていた だが一番目を惹いたのは… 「黒い…翼……!!」 。まるで天使、いや、堕ちた天使を思わせる一対の黒翼。 自分は堕天使を召喚してしまったのか!? しかし起きる様子がまるでない。 不穏に思いそっと抱き上げてみる。ルイズよりもさらに小柄な少女だったが… 「この子…息してない!心臓も止まってる!?」 「ル、ルイズが…ルイズが堕天使の死体を召喚したぞ!」 「何呼び出してんだ!」 「なんて罰当たりな!」 ルイズはおろか他の生徒までパニックになり辺りは騒然となった そんな中コルベールだけがルイズに悠然と歩み寄りルイズの抱いている少女を調べ始めた 「これは…安心するんだミス・ヴァリエール、落ち着きたまえ。 君が呼び出したのは天使の亡骸などではないよ。これを見てみるんだ」 コルベールが少女の袖を上げ腕の間接部を見せる 「球体型の間接…ってことはこれは人形!?」 「ああ、そのようだね。見たまえ、ここにネジもある」 まきますか?まきませんか?とはこのことだったのだろう。 「これが人形だなんて…?肌なんか人間のそれと全く変わらないわ」 人形の頬に手をあてルイズは呟いた 「さあ、このネジを巻くんだ。恐らくはそれで動き出すのだろう」 「はい」 後ろの首元にあるネジ穴にネジを入れ何度か巻いてみる 「…うわっ!」 直後人形は紫色の妖しい光に包まれ、ルイズは思わず手を離してしまった しかし人形は倒れること無く自らの足で大地に立つと 俯いたままぎこちなさそうに一歩一歩ゆっくりと歩き始た そして俯いた顔が上がり遂にその瞳が開かれる 紫色の瞳をした鋭い眼孔そして―― 「…64万、4690時間と16分ぶりの目覚めね…」 どこか艶のある少し低めの声で人形は呟いた 前ページ次ページゼロのミーディアム
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前ページ次ページゼロディス ~第一話 魔神少女エトナ~ 所変わって、ここはハルケギニアという人間界の一つ。 この世界では一部の人間が魔法を使えたりしちゃう世界。 そんな世界のトリステイン魔法学校近くの草原にて、春の使い魔召喚を行っている最中にそれは起こった。 轟音、爆音、炸裂音 今までの爆発とは一線を駕するものに、桃色の髪の少女は確信した。 この小さな少女『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』はどんな魔法を使っても爆発しかしない。 当然ながら、使い魔を召喚するためのサモン・サーヴァントも爆発し続け、流石に挫けそうになりながらも、これで最後!と言わんばかりに杖を振った結果、やはり爆発だったのだが、その爆発の中に確かな手ごたえを感じたのだ。 まあ『何か今までの爆発より威力高いし、これはイケる!っていうか絶対成功した!』という、かなり心もとない手ごたえではあったのだが、その心もとない手ごたえは、確かにとんでも無いものを呼び出す結果となった。 「……ぬいぐるみと…平民?」 生徒の誰かがそう言った。 「平民だな」 また誰かが言った。 「…ぷっ!流石は『ゼロのルイズ』だな!!どっからか平民の女を呼んだみたいだぞ!」 もうそこからは爆笑である。 『ゼロのルイズ』と呼ばれた彼女は、爆発のショックからか呆然としている目の前の少女と、その少女が掴んだぶっさいくな鳥のようなぬいぐるみを見てプルプル震えていた。 そう、『ゼロのルイズ』 どんな魔法も失敗し、何一つ成功した試しの無い落ちこぼれの烙印。 悲しいやら情けないやらで、肩の震えは身体全体に広がり、今にも大きな鳶色の目は涙を流そうとしていた。 そして、そんなルイズを気の毒そうに眺めながらも、自分の仕事を全うすべく、死神の鎌のような言葉を言い放つ、頭髪が寂しい頭のコッパゲ教師ことコルベール。 「では、ミス・ヴァリエール。契約を。」 それを聞いたルイズは、もう一度だけ召喚させて欲しいと嘆願するも、神聖な儀式ですので云々というコルベールの言葉に逆らうことも出来ず、肩を落としながら、未だに呆然とした少女を少し観察する。 髪は赤色、背は自分より少し高いぐらいだろうか?服装は、上も下も黒を基調としたやたらと露出度の高い物。素材は皮?あ、胸はなんだか友達になれそうな感じだ。目つきは…正直悪い。何かやたらと鋭い。でもまあ、全体的には可愛いと言える。うん、それだけが救いかもしれない。これで不細工だったら流石に泣く。 そこまで観察し、最終的には「髪と露出がツェルプストーっぽくてムカツクけど、胸が無いからまあいっか。まあ雑用ぐらいには使えるだろうし…」という、事あるごとに嫌味を言ってくる、胸の大きな同級生の一人には聞かせられない理由で、契約のキスを決意し、召喚した少女の方へ一歩近づいた。 すると、それまで呆然としていた少女が、未だに手に持っていたぬいぐるみを目の位置まで持ち上げ、恐ろしい声で呟いた。 「プリニー…起きてんでしょ~…?ちょ~っとだけあたしとお話しよっかぁ…」 少女がそう言うと、その少女が握っていたぬいぐるみがビクンと跳ねるように動き、驚くことに言葉を発した。 「エトナ様…あのー…掃除終わったんで、しばらくお暇もらってもいいッスかね?1000年ぐらいでいいんスけど?」 エトナと呼ばれた少女は、その言葉を聞くと、額に青筋を何本か出し、地獄の底から響くような声で、そのしゃべるぬいぐるみを怒鳴りつけた。 「なら、1000年と言わず、永久に暇しとけやコラああああああああああっ!!!」 そして、そのままフルスイングでぬいぐるみを空高くまで投げ飛ばす。 勢いよく投げられたぬいぐるみは「あーれー!!」という情けない言葉を残しながら校舎の方へ吹っ飛び……大爆発した。 ルイズの失敗魔法を鼻で笑うような大爆発に、周囲のコルベールも、生徒達も、当然呼び出したルイズも揃って口を大きく開いて呆然とする。 そして、その状況を作り出した、エトナと呼ばれた少女は「後で拷問決定!!」という容赦ない一言を言い放ち、未だに口を開けたままのルイズに向き直ると、周囲の全てを凍りつかせる事を言った。 「で?アンタが魔界に次元ゲートもどきを作って悪魔を呼ぼうとした命知らずの人間?望みは何?誰かブッ殺したい奴でもいんの?」 「あくま…?」 呆けた表情でルイズが聞き返すと、その少女はルイズを小馬鹿にするような表情で言い返した。 「魔界から召喚されるもんが悪魔以外の何だつーのよ。ほら、早く願い言いなさいよ。さっさと終わらせてあんたの魂もらって魔界に帰ってスイーツ食べたいのよあたしは」 そう。悪魔を呼び出した者は、何かの望みと引き換えに、呼び出した者の魂を代価として取られる。 御伽噺や古い書物でお決まりのアレ。 しかし、まさか、自分の身にそんなもんが降りかかるとは全くちっともこれっぽっちも思っていなかったルイズは全身をピシリと固めると、半泣きの表情でコルベールの方を見て助けを求めた。 「みみみみみすたこるべーる、どどどどどうしたらいいでしょう?」 しかし、話を振られたコルベールも、悪魔召喚といった御伽噺ぐらいは知っていても、流石に目の前にした事は無く、どうしていいやらわからない。 必死に薄くなった頭の中で、対応策を考える。 「えー…ミス・エトナでよろしいですかな?」 言葉も通じるのだし、取りあえずはコンタクトを取ってみないとと判断し、コルベールはできるだけ慎重に、その自分を悪魔だという少女へ話しかけてみる。 「あによ?アンタが死にたいの?なら、一気にサクっと殺っちゃうけど?」 その「あ、そうだ。城下町に行こう」みたいな軽さで自分の命を取られそうになったコルベールは、必死に頭を横に振り、いくつか質問をしてみる。 「いえ、死にたくはありません!あのですね、貴女は悪魔という事でよろしいですかな?」 「だからそうだって言ってんでしょ。ついでに言うと、悪魔の中の神。つまり魔神よ。で?質問は終わり?死ぬ?」 「いえいえ!死にたくは無いです!というか、あなたを召喚したのは、誰かを殺すためではありません!!」 「は?じゃあなんであたし呼び出されたのよ?つうか、あたし呼んだのってアンタじゃなくて、そこのチビでしょ?何でアンタがあたしにどうこう言うの?つうか死ぬ?やっぱ死ぬ?」 そう言ってルイズを指差した後、少女は凄まじい殺気を放ち、それをコルベールに叩き付けた。 このコルベール、今ではのほほんとした教師ではあるものの、昔はそれはもう血生臭い事をやってきた悪魔みたいな人物であるのだが、本物というものはレベルが違った。 普通の人間なら、発狂してしまう程の殺気を叩きつけられ、貴重な頭髪を数本撒き散らしてしまう。 ついでに、その余波を受けて、周囲の生徒達も、その使い魔も気絶してしまい、今では少女を召喚してしまったルイズと、髪の毛が更に可哀そうな事になってしまったコルベールのみとなってしまった。 「みみみみすう”ぁりえーる!!ちょちょちょっとこちらへ!!」 どうにか気絶する事を堪えたコルベールであったが、殺気の直撃を受けてしまい、情けないことに足が言うことを利かず、自分からルイズの方へ行けない為に、こちらへ呼ぶと、ルイズは半泣きになりながらコルベールむかって匍匐前進してきた。 腰が抜けてしまったのである。 「(どどどどうしたらいいでしょうか)」 「(ミス・ヴァリエール、こうなったらコンクラント・サーヴァントに賭けるのです!契約さえしてしまえば、万に一つですが、あなたに逆らえなくなるやもしれません!)」 「(ええええ!?でも、契約しちゃったらわたしの魂がっ!)」 「(いえ、恐らく彼女のいう契約と、私達でいうところの契約は別のものと推測できます。もし我々の契約と彼女の契約が同じであるならば、既にあなたは無理矢理契約を結ばれ、魂を奪われているのではないかと)」 「(言われてみれば…ですが、どうやって契約すれば…)」 「(そこは…あなたにお任せするしかありません。情けないことに、私の力では彼女を止める事すらできないでしょう。いえ、このハルケギニア全体を見ても、彼女を止められる者がいるかどうか…)」 「(わたし、なんてモノを召喚しちゃったんだろう…うう…始祖ブリミルよ…せめて平凡な平民とかでも我慢したのに…恨みます…)」 「(同情はしますが、呼んでしまったものは仕方ありません…ミス・ヴァリエール、万が一、彼女が逆上してしまった時は私が壁となります。恐らく、ほんの一瞬でしょうが、どうか逃げてください…)」 「(ミスタ・コルベール…)」 などと、匍匐前進のポーズのルイズと、足がカクカクして、産まれたての小鹿みたいなコルベールが目の幅涙でヒソヒソとカッコイイ事を言ってると、いつの間にか彼等の後ろに来ていた魔神が口を開いた。 「で?話は終わった?」 ルイズとコルベールの時が止まる。 人間というものは不思議なもので、想像を絶する恐怖に対峙すると、凄まじいポテンシャルを発揮するもので、今のルイズとコルベールは正にそれだった。 コルベールの目がルイズを見て、一瞬で思考を伝える。 一方ルイズも、そのアイコンタクトを一瞬で理解し、凄まじい勢いで言葉を紡ぎだした。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール五つの力を司るペンタゴンこの者に祝福を与え我の使い魔となせえええっ!!」 ルイズが一気にそう言うと、コルベールは自由に動かない足に精神力で気合を入れ、ルイズを掴み上げると肺の底から叫んだ。 「うおおおおおおおっ!!」 そしてコルベールは、ルイズを思いっきり少女に投げつける。 まるで一瞬が永遠に感じられる世界。 その世界でコルベールは確かに見た。 ファイアーボールの如く飛翔するルイズの身体が少女に向かっていくのを。 「……美しい…」 もしかすると自分のみる最後の光景はこれなのかもしれない。 そう思いながらも、コルベールはその姿に心を奪われ、思わずそう呟いた時、ルイズの唇は少女の唇に吸い込まれるように触れ合い…その直後に凄まじい激突音と 「「ぐはあっ!!」」 という、どこぞの悪役みたいな声を上げて、仲良く気絶したのである。 こうして、ゼロと呼ばれ続けた少女と、魔王すらも凌ぐ力を持ち、最凶と恐れられた魔神との契約は完了することとなった。 ~次回予告~ 「魔法世界ハルケギニアに飛ばされてしまった、美人魔神少女エトナっ!」 「俺もいるッスよー」 「そこで待ち受けていたのは、悪魔を手足に使い、ハルケギニアを征服しようと企む、恐ろしい爆発魔法の使い手ルイズ!!」 「え!?待って!!わたしそんな役なの!?」 「そのルイズの腹心である、邪悪なコッパゲ教師コルベールが、か弱いエトナの…ああっ!!ここから先は言えないっ!!」 「あれでか弱い!?か弱いんですか貴女!?ううむ…これから先、世界はどうなってしまうのでしょうか…」 「次回!!ゼロディス第二話!!~ルイズ逝く~お楽しみに♪ハルケギニアの歴史がまた一ページ…」 「ちょっと!?わたし死ぬの!?ファーストキスがあんなな上、次で殺されちゃうの!?ちょっと!!待って!!いーーーやーーー!!!」 前ページ次ページゼロディス
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前ページ次ページ鮮血の使い魔 最初に起こったのは、人を馬鹿にした笑い。 続いて起こったのは、アレが何なのかとささやき合う声。 春の使い魔召喚の儀式を監督していたコルベールは、 嗅ぎ慣れたその匂いに気づき恐る恐る呼び出された少女へと近づく。 そしてソレが何であるかを理解するや、すぐさま生徒達に寮へ戻るよう指示した。 けれど。 少女が、目覚めて。 見慣れない服装、トリステインでは珍しい黒髪の美少女。豊満な胸。 その容姿に心惹かれ、あるいは嫉妬した次の瞬間、疑問が湧く。 起き上がって、胸に抱いていたソレがあらわになったから。 彼女を見る角度によっては、ソレの表情を確認する事も、できた。 悲鳴が上がる。 悲鳴の中ルイズは、ソレを抱く少女を召喚したルイズは、呆然としていた。 コ レ は な に ? 理解、できなくて、震えるルイズに気づいた少女、深く暗い瞳が、ルイズを、見た。 呑み込まれる。 見ているだけで精神が蝕まれるような、痛々しく、けれど愛に満ちた、狂気。 こ、れ、が、ルイズの、使い魔。 「あなた、誰?」 少女が問う。 「私は、言葉といいます」 少女が答える。 「あなたは?」 少女が問う。 「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 トリステイン魔法学院に在籍するメイジよ」 少女が答える。 「メイジ?」 少女が不思議そうにその単語を呟く。 「それ、何?」 少女が不思議そうにソレの正体を訊ねる。 少女は、微笑んで、胸に抱いていたソレを、少女に見せた。 「私の彼氏の、誠君です」 ソレは、人間の少年の、頭部だった。 ようやく邪魔者がいなくなって、誠君と二人きりになれた。 私は誠君を抱きしめながら、ヨットの上に寝そべっていた。 行き先は、水平線の向こう。 もう二度と誰も私達の邪魔をしない、そんな場所を探しに行くために。 そして、銀色の光が、私達を導いてくれた。 これはきっと神様が私達を祝福してくれたに違いない。 私達は、ここで、楽園を築く。 恋人、誠の頭部を持って笑う少女の胸元はドス黒い血で汚れていた。 ルイズは思わず後ずさる。 今、この場で冷静なのは召喚された少女と、コルベールだけだった。 コルベールは、少女の壊れた瞳と壊れた声色を聞いて、すぐに察した。 ああ、この娘は、耐え切れぬ現実から目を背ける事で心を守っているのだと。 かつて、そんな人間を自らの手で作っていたコルベールは、 贖罪のために目の前の少女を見捨てるなどできなかった。 「ミス・ヴァリエール。この少女と契約しなさい」 「え……?」 この、人の頭を持った少女と? 「そ、そんな! サモン・サーヴァントは失敗です、平民を呼び出してしまうなんて。 やり直しを、やり直しをさせてください! ミスタ・コルベール!」 「使い魔がなぜメイジの召喚に応えるのか? それは主が使い魔を、使い魔が主を必要としているからだよ。 この少女は、君を必要としているんだ。だから」 「でも、こ、この、彼女は、く、首、人の、頭を、持っています」 恐怖と、生首に対する生理的嫌悪によりルイズの声は滑稽なほど震えていた。 それでも構わずコルベールは契約を強要する。 「この少女は恐らく……何者かに恋人を殺されたショックから、心が壊れてしまったのだ。 もしかしたら目の前で首を刎ねられたのかもしれん。 そんな哀れな少女が、君に召喚された。これも何かのめぐり合わせだ。 どうか、君の優しさで彼女の心の傷を癒して上げて欲しい。 きっとそれができるのは、運命という絆で結ばれた召喚者、君だけなのだから」 「は……はい」 いやだいやだいやだいやだいやだ。 だって人の生首を抱いている女なんて気持ち悪い。 正気の沙汰じゃない、狂ってる。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 それでも、契約せねばならない。 ルイズは少女にキスをした。 とても柔らかくて、あたたかくて、しっとりと濡れていて。 気持ち悪いくらいに気持ちよかった。 「い、痛いッ……!」 少女は左手を握り締めてうめく。ルーンが刻まれているのだ。 それでも抱いている誠君を落とさないよう痛みに耐えている。 左手の甲に、刻まれた、そのルーン。 悲哀と鮮血を呼ぶガンダールヴの印が少女に刻まれた。 同時に、少女の心の闇に、介入する一筋の光。 「契約が終わりました」 ルイズが言うと、コルベールは小さくうなずいて少女に向き直る。 「そうか。……君、いきなりこんな所に召喚してしまい申し訳ない。 事情を説明するから、名前を教えてくれないかね?」 「言葉。桂、言葉」 「そうか。では言葉さん、まず私についてきてくれないか? 君の大切な、彼を、いつまでもそのままにはしておけまい。 どこか、埋葬できる場所を探して――」 言葉の瞳が揺れる。 揺れて、誠を右手で抱いたまま、左手を地面に伸ばす。 コルベールの位置からは死角になっていたそこには、血濡れのノコギリ。 「あ……」 ルイズが声を漏らすと同時に、少女の左手がノコギリを掴み、ルーンが光る。 一閃。 あまりにも一瞬の事で、ルイズには何が起きたのか理解できなかった。 彼女達から距離を取って様子を見ていた生徒達も解らなかった。 ただ、コルベールだけが理解していた。 「ここにもいた」 言葉はゆっくりと、立ち上がる。 右腕に誠の頭を、左手にノコギリを持って。 「私と誠君を引き離そうとする人が」 右腕が、ボトリと地面に落ちる。 コルベールでなければ咄嗟に腕でノコギリを防ぐという真似はできなかったろう。 だから、コルベールは首を裂かれずにすみ、右腕を失った。 彼の右腕の切断面から、鮮血が飛び散る。 「ふふふ、あははははは」 鮮血の中、言葉は笑った。 生徒達は悲鳴を上げて逃げ出し、残ったのはキュルケにタバサという生徒だけ。 ルイズは呆然と、言葉の嬉しそうな笑顔を、壊れた笑い声を、見て、聞いて、いた。 前ページ次ページ鮮血の使い魔
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前ページ次ページzeropon! 第一話 神、出現 どん!どどん!どどん! 凄まじい爆発に爆煙が生まれ、そして晴れる。 「…何よ、これ?」 彼女が召喚したのは一冊の本だった。 トリステイン学院春の使い魔召喚の儀式、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは 幾度も幾度も詠唱と、それによる爆発を繰り返しその結果、穿たれた一番大きなクレーターの真ん中。 そこにあったのは、魔獣でも、もはや生物でもなく、本だったと分かった瞬間、彼女は絶望した。 「ミ、ミスタ・コルベール!や、やり直しを…」 「ミス・ヴァリエール。残念ですがそれは許可できません。たとえ本であろうと、召喚したならば それはあなたの使い魔です。」 教師から放たれたその言葉が、再び彼女を絶望に突き飛ばす。 「し、しかし…!」 「だめです。それに契約をしないというのならば、召喚失敗ということで残念ながら留年、ということになりますが?」 「そんな!」 ただでさえ肩身の狭い思いをしているのだ。ヴァリエール家の三女として留年という選択肢はルイズには無かった。 「あははははは!さすが『ゼロ』のルイズ!本を召喚するなんて!」 「生物ですらないなんて『ゼロ』の二つ名はだてじゃないな!」 同級生の嘲弄と嘲笑に涙が出そうになるがこらえて、ルイズはクレーターに向かい、そこにある本を手に取る。 改めてその本を見ると表題が書かれていた。 題名は「パタポン~再び海に出る~」 「絵本…かしら?」 「はやくしろよ!ゼロ!」 「コントラクト・サーヴァントも失敗か?!」 同級生の野次に意を決して、声を上げる。 「わが名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!五つの力を司るペンタゴン。この物に祝福を与え我が使い魔となせ!」 そして表紙に口付けする。淡い光が本を包む。 「……あれ?」 本は淡い光を放っただけで何も変化が起こらなかった。 「ふむ。…これは、失敗、ということですかな?」 「ちょ、まままってください!本の中かもしれません!」 失敗。この二文字は慣れ親しんだものだが、今回ばかりは遠慮したい。慌てて本を開く。そこには… 「これ…契約…書?」 一頁目、そこには、余白でも目次でもなく、契約書、と書かれたページがあった。 そこにはこう書かれていた。 『私は世界の果てを目指すためパタポンの神様になることを誓います。途中で投げ出しそうになっても絶対に最後まであきらめません。』 そして契約者の欄はまだ空欄だった。契約者のルーンはなかった。別のページかと思い次のページを開く…が開かない。 「これは…契約しないと開かないみたいですね。マジックアイテムの類でしょうか?」 後ろから見ていたコルベールが言う。 「それで?」 「はい?」 「それに契約しないんですか?」 契約書とかかれているのだ。契約するのだろう。当たり前だ。しかし…書いた途端、デロデロデロデロデーロロ、と呪われるかもしれない。 「さあどうするんですか?あなたが最後なんです。早く決めなさい。」 そういって錬金で作った羽ペンを差し出すコルベール。 それをニヤニヤと見つめる同級生たち。 ルイズは困惑していた。これが何なのか分かりもしないのだ。しかもそれに契約しないと留年になってしまう。 ルイズは考える。今までの人生を。困難と苦難にまみれた人生。 「…それがどうだって言うのよ。」 今までの人生苦難でできたようなもの。もうひとつぐらい。 「背負ってやるわ!」 コルベールから羽ペンを奪いとり、ルイズは再び声を上げる。 「良く聞きなさい!わが名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!苦難だろうと!困難だろうと!いくらでものりこえてやるわ!」 ルイズが書き込むと、書いた文字が光りだす。そしてその末尾に契約のルーンが刻まれた。 「ふむ、これで契約完了ですね。しかし…いったいどんな内容なのでしょうか?」 自称、研究者のコルベールは見たことも無い文字でかかれた本に興味があるようだ。。 「せんせー!もうかえりましょうよー」 「ゼロが出した物なんてたいしたこと無いですって!」 「まあまあ、さわりだけでも見せてくれませんか?ミス・ヴァリエール」 興味津々といった感じでルイズの本を覗き込むコルベール。 「はあ、わかりました…」 正直てかる頭がまぶしいが、ルイズはページを開く。 そこには奇妙な生き物が描かれていた。目玉。目玉が手が生えて足が生えて動いていた。 動いて… 「え?!これ、動いてる?!」 絵本の絵は動いていた。そこに描かれた…多分これがパタポンなのだろう。 それがせわしなくページを動き回っていた。 文字がページに浮かび上がる。 「ほう。やはりマジックアイテムですか。動く絵本とはこれまた珍しい。」 ー最強の悪魔を倒し、かつての都市に帰りついたパタポン達ー ーパタポラーナはかつての繁栄を取り戻そうとしていたー 「おや?これはどうもに続編、のようですね…。」 コルベールがつぶやく。いきなり最強の敵との戦いが終わってしまっている。 これが一冊目なら作者は何かの病気だろう。 ーしかしパタポンたちの旅はまだ終わりませんー ーもう一度海を越えるためー ー彼らは再び船を作りましたー そこまで読むと勝手にページがめくれた。 「自動とは!これまた面白い!」 一人喜ぶコルベール。そんなコルベールの様子に同級生たちが周りに集まってくる。 ーふたたび海に漕ぎ出したパタポンたちー ー荒波小波を超えて、はるかなる世界の果てを目指しますー ーしかし…その途中パタポンたちの前に鏡が現れましたー 「?…これって。」 その鏡をルイズは見たことがあった。 「これは…サモンゲート?」 パタポンたちの船の前に突然描かれたそれは、まぎれもなく召喚の際に呼び出されるサモンゲート。 それを見た面々はざわめきだす。 ーパタポンたちはあんまり考えないで突っ込みましたー そう書かれた直後にパタポンたちは船ごとサモンゲートに入っていった。 考えなさいよ!とルイズが頭の中で突っ込んだ瞬間、背後に大爆音、あわててルイズが振り返るとそこに… 一隻の船があらわれていた。そしてそこから 「ほへ?」 「ふへ?」 「おや?」 と、わらわらと船の上から目玉生物が、絵本に描かれていたその姿そのままの『パタポンたち』が顔を覗かせていた。 前ページ次ページzeropon!
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前ページ次ページ未来の大魔女候補2人 ルイズは暗闇の中に立っていた。 右を向いても左を向いても闇、闇、闇。紛う事無き暗闇である。 闇は深く、一寸先どころか自分の手すらも見ることが出来ない。 しかし、ルイズは恐怖を感じてはいない。それどころか、これから起こる事にワクワクして仕方がないくらいだ。 それもその筈、今から自分の全てを賭けた舞台なのだから。 『瞬間を感じる。もう昨日までの私じゃない! この新しい道は、望むところまで続いている……』 ルイズは今までに無い充足感を感じていた。瞳には暗闇など一瞬で掻き消してしまう程の強い意志の輝きが灯り、四肢には怪力乱神もかくやと力が漲り、髪の一本一本までにも恒星の如き魔力が迸る。 暗闇で見えないがルイズは、白のオペラドレスと肘まである白の手袋に身を包み、髪は自然に流している。そして、各部に華美に成らない程度の装飾品。 既に準備は万端だ。 不意に暗闇が薄れた。薄っすらとだが、周囲の様子が分かる。 ルイズの目の前には、眼が並んでいた。無数の2対の瞳が、闇の中に浮かんでいる。 眼は、ルイズの立つ位置より低い所から徐々に上に昇っていき、見渡すとほぼ180度の範囲で囲われている。 どうやら、すり鉢型のホールの舞台に立っているようであった。 眩い光がルイズを照らす。一瞬眼が眩むが、眼を細めて入ってくる光を調節する。 眼が光に慣れぬうちに、軽快で何処か気の抜けた音楽が流れてくる。 『もう少し待ってくれても良いのに…… 後で文句を言わなくちゃ』 一人ごちるが、顔には出さずに前奏に合わせて体全体でリズムを取る。 やがて前奏が終わり、ルイズは陽気に歌いながら舞台の端から端まで移動する。そうする事で、観客全体に自分をアピールするのだ。 歌の内容は、前人未到で空前絶後の偉業を、手探りながらも成し遂げた自分自身を大袈裟に歌ったもの。 やがて曲も終わりに近づき、サビに差し掛かるとルイズは回転を始める。クルクル、クルクルと回転し、その勢いは衰えることを知らない。 『嗚呼…… 世界が回る。みんな回っている。回転は素晴らしい。回転が全てを支配している。 馬車の車輪は回転する事で前に進み、自然の生態系も円環を成して巡っている。そして、星の動きですら回転が支配している。 私は永劫回転する車輪の、永劫静止する中心点になって森羅万象を見通す。もう少しで、もう少しで宇宙の真理が見える…… 嗚呼…… 大きな星が、点いたり消えたりしている…… 大きい…… 彗星かしら……? いえ、違うわ。彗星はバアーッと動くもの……』 やがて回転は螺旋へと変化し、宇宙へと上っていく。ルイズの意識は銀河の海を渡り、星屑の煌めく庭を駆け抜ける。光の粒子を追い抜き、視界が輝く白に染まる。 両手が真理の扉に掛かろうとした時、音楽が鳴り止み万雷の拍手が奔る。その拍子に回転は勢いを失ってしまう。 真理に至れなかった事を残念に思うが、鳴り響く拍手は悪くない。拍手が鳴り続ける中、ルイズの傍に人影が現れた。 「お見事だったわね、ルイズ」 「姫殿下!」 現れたのは、ルイズの幼馴染でありトリステイン王国の王女、アンリエッタであった。 アンリエッタの格好は、公の場の為の豪奢なドレスではなく、この舞台の主役であるルイズを引き立たせつつ地味にならない物である。 2人は、柔らかに微笑み合って抱擁を交わす。 「姫殿下! お越し下さり、真に有難う御座います。 このルイズ、感激の極みで御座います」 「ああ! ルイズ! ルイズ・フランソワーズ! そんな堅苦しい真似はやめて頂戴! あなたとわたくしはお友達でしょう! 昔のように、アンと呼んで頂戴!」 (中略) 「でも、貴女は遠い人になってしまったわねルイズ。まさか貴女が××だったなんて……」 アンリエッタが誉めそやすが、肝心な部分が聞こえない。 詳しく聞こうと身を乗り出すが、また新たに人影が現れてその行為は中断させられた。人影の数は5つ。 「おめでとうルイズ。貴女には負けたわ」 「すごい」 「貴女は自慢の生徒ですぞ」 「君のようなメイジが我が学院から出るとは、ワシも鼻が高いのう」 「ルイズ。改めて君に結婚を申し込みたい」 キュルケは素直に負けを認め、タバサは素直に褒める。コルベールとオスマンは学院の誇りだと持ち上げ、婚約者のワルドからはプロポーズを受ける。 夢にまで見た光景が目の前で展開され、先程の疑問は吹っ飛んでいった。 再び現れる人影。 「おめでとう、ちびルイズ」 「おめでとう、ルイズ。我が身の事のように誇らしいわ」 「貴女はヴァリエール家の誇りです。良くやりましたねルイズ」 「小さなルイズ…… 本当に大きくなったね。 父は、父は…… おろろ~んっ!」 「姉さま! 母さま! 父さま、泣かないで下さいまし」 祝福するのは、ルイズの家族。 姉(怖いほう)は素っ気無く、姉(優しいほう)は温かい言葉で、何時もは厳しい母ですら優しい。父は、感極まって盛大に涙と鼻水を流しながら泣いている。 その言葉を聴いて、ルイズの目頭に熱いものが宿る。堪えようとしても、堪えきれない熱い塊を零さないように顔を手で覆って上へとそむける。涙とは、嬉しい時にも流れるものだとルイズは初めて知った。 「おめでとう」 「おめでとう」 「おめでとう」 「おめでとう」 「おめでとう」 「おめでとう」 多くの人達が、ルイズを祝福し、拍手を送る。 過分な幸福に包まれながら、ルイズは一つの事を確信する。 「私は…… 此処に居てもいいのね!」 「おめでとう」 「おめでとうゲコ」 「おめでとうゲコゲコ」 「おめでとうゲコゲコゲコ」 「おめでとうゲコゲコゲコゲコ」 「おめでとうゲコゲコゲコゲコゲコ」 ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ。 ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ。 何時しか祝福の声は聞こえなくなり、辺りが再び闇に没する。拍手の変わりに聞こえてくるのは、カエルの求愛音のような音。 闇の中には、小さなオレンジ色の点が3つ浮かび、それは徐々に大きくなってきている。やがて、その点が金貨程度の大きさになった時に、その3つの点を有するモノの輪郭が浮かび上がった。 滑らかな曲線を描く体。その体の割には小さく、本来の役割を果たす事が出来ないであろう飛膜の翼。吸盤のせいで、大きく膨らんだ指先を持つ四肢。 大きく割れた口の上には、先程のオレンジ色の3つの点。人間のそれとは違う3つの瞳である。それらの特徴を持った巨大蛙が、暗闇の奥から飛び出してきた。 ルイズの足は、何かにガッチリと掴まれて動かす事は出来ない。そしてそれは、顔も同じであった。顔を背けることも、逃げ出す事も出来ないルイズが出来る事は唯一つ。それは即ち、叫ぶ事しかない。 「いぃぃ――――やぁ――あぁ――――っ!!」 未来の大魔女候補2人 ~Judy Louise~ 第2話 前編『ルイズとカエルの関係』 軽快なノックが部屋に響く。ここは、トリステイン魔法学院の本塔の最上階にある学院長室。 その音を聞いた学院長秘書ロングビルは、学院長を使って椅子を破壊する作業を止めて、素早く自分の席に戻る。 学院長であるオスマンは、立ち上がって総白髪の長髪長髭を正してから、威厳のある声で訪問者に問いかける。 「誰かね?」 「コルベールです、オールド・オスマン」 「うむ、入りたまえ」 「失礼致します」 コルベールは一礼をしてから入室し、ぐるりと中の様子を眺める。 学院長室は、格調高い調度品で整えられており、部屋の奥にはセコイアのテーブルが置かれ、その斜向かいにあるテーブルでは、ロングビルが仕事をしている。 奥にある机の上には30サントほどの水煙管が置かれており、その傍らにある紙袋からは、糖蜜で固められた煙草の葉がチラリと見えた。 オスマンは、何故か机の前に置かれた椅子に片手を掛けて、胸を張りながら威厳に溢れた雰囲気を醸している。 ロングビルは涼やかな顔をしているが、その内心、そんな様子をメガネの奥から覗いて笑いをかみ殺していた。 「用件は何かね?」 「使い魔召喚の儀式ですが、全ての生徒が召喚の儀式を終えた事を報告します」 「ほう…… ほぼ予定通りの時刻じゃの。すると、ヴァリエールの末娘も召喚出来たのじゃな?」 「はい。全ての生徒が使い魔を召喚し、無事契約を終えました」 その報告を聞いて、オスマンは胸を撫で下ろす。最近では、成績が悪いと学院に文句を言ってくる馬鹿親が増えているので、その要因が減るのに越した事はない。 「報告はそれだけかね?」 「いいえ。1つ問題が起きました」 「何じゃと?」 生い茂った眉毛を吊り上げてオスマンは驚きを表す。 コルベールは頷いてから、問題の報告を始める。 「はい、結論から述べるとミス・ヴァリエールが女の子を召喚しました。 そしてその女の子は、メイジだと推測されます」 「何じゃとーっ! 君、さっき全員が契約を済ましたといったね? まさか、その女の子と契約させたんじゃ有るまいなっ!?」 突然の大声に、書き物の仕事をしていたロングビルが驚き、ビクリと顔を上げる。 コルベールは落ち着いたもので、いきり立つオスマンをやんわりと宥めて話を続ける。 「ドウドウ。早合点してはいけません。 ミス・ヴァリエールはその子とは契約をしていません。そして、彼女は既に使い魔との契約は済ませております」 「つまり…… 彼女は使い魔を召喚した。そして、そのついでに女の子も召喚してしまった。と、言う事じゃな?」 「Exactly(その通りでございます)」 「だったら、初めからそう言ったら良いじゃろうに…… 人が悪いのぉ、お主。この、このぉ」 「気色悪い声出さないで下さい。オールド・オビワン」 「オスマンじゃよ…… ミスタ・コンターギオ」 「「……………………っ!」」 コルベールとオスマンは無言で睨み合う。2人の間の空間に火花が散るのが、ロングビルには幻ではなく見えた。 永遠に続くかと思われた睨み合いだが、大人気無いと思ったのか2人同時に相好を崩す。些か引きつった笑顔ではあったが。 冷戦に突入しなかった事に、ロングビルはホッと胸を撫で下ろした。この2人の睨み合いは、一般人には心臓に悪い。 「それで、その女の子は何処に?」 「はい、召喚した時には気絶しておりましたので、医務室へと運びました」 「そうか…… なら、目を覚ましたならヴァリエールの末娘と共に此処へ連れてきてくれい。 夕刻までに目覚めなんだら、明日の朝に事情を聞こう」 「分かりました。その様に致します。 それでは、私は様子を見てきましょう」 「うむ、そうしてくれい」 女の子から事情を聞くための軽い打ち合わせをして、コルベールは一礼して部屋から去っていった。 コルベールが退室し、再び2人に戻った学院長室でオスマンはため息をつく。平和とは、長くは続かないものだと鼻毛を千切りながら憂鬱に感じる。 千切った鼻毛を息で吹き飛ばすのを、ロングビルに白い目で見られているのに気が付きもせず独り言を呟く。 「ふぅ~ 妙な事になったもんじゃのう。 しかし、使い魔召喚で人間を召喚するとは如何なっとんのじゃ?」 「元の場所に送り届ければ、問題ないのでは?」 「まっ、そうなんじゃがのぅ。それでも責任逃れは出来まいて」 オスマンは椅子を机に戻して、だらしなく腰掛ける。机に肘を突いて、水煙管に手を伸ばすがその手は宙を切った。 水煙管は空中をふよふよと漂って、ロングビルの机に着陸する。 オスマンの眼には、杖を振るうロングビルの姿が映る。どうやら、レビテーションの魔法で水煙管を取り上げたようだ。 「まったく、一服くらい良いじゃろうが」 「もう一日の喫煙量は既に超えていますよ。あなたの健康管理も仕事ですので悪しからず」 「まったくお堅いのう」 文句を言うオスマンだが、顔中の皺をクシャクシャにして微笑む。 この老人は、美人の秘書が構ってくれる、それだけで嬉しいのだ。 そこら辺はロングビルも承知しているのだが、気が付くとついつい乗せられてしまっている。それはオスマンの憎めない性格故か、人望の厚さから来るものか。 どちらにせよ忌々しい事だ。後ろで纏めている緑髪を掻き揚げながら、ロングビルはつくづくそう感じる。 「所で、ミス・ロングビル」 「? 何でしょう?」 「白の下着も良いんじゃが、君には黒の下着が似合うと思うんじゃ。 もし良かったら、今度プレゼントしても……」 セクハラ発言は、空気を切り裂く鋭い音で中断される。背後の壁にはペーパーナイフが突き刺さり、細かく振動していた。 「いやぁ――――――っ!」 コルベールが学院長室に赴いているのと同時刻に、白い部屋に絶叫が木霊する。場所は学院の医務室。 部屋に居るのは、絶叫する少女と耳を両手で塞いでいる少女、そして絶叫する少女の隣のベッドに寝ている女の子の3人。中年の養護教諭は席を外している。 「五月蝿いわよっ、ヴァリエール!」 「あぉがっ!?」 絶叫する少女、つまりルイズの頭部に、良い角度でチョップが振り下ろされる。 ルイズの視界には星が飛び散り、光が明滅する。キョロキョロと辺りを見回すと、白いカーテンと赤毛の少女の姿が眼に映った。 赤毛の少女、つまりキュルケは腰に手を構えて、ルイズを呆れた様子で眺めている。 「うぅ…… 何故かチョップを食らったみたいに頭が痛いんだけど、何か知らない?」 「さぁ? 気のせいじゃない? 何か変な夢でも見たの?」 「夢? 見たかも…… 所で此処、何処?」 「此処は医務室よ。貴女、気絶して此処に運び込まれたのよ」 「……医務室? ………………っ! そっ、そうだ、儀式は? 早く召喚しないとっ!」 ルイズはベッドのシーツを跳ね除けて、飛び起きる。 だが、急に起き上がったせいで平衡感覚が乱れて眩暈が起き、足を縺れさせてスッ転んでしまう。 キュルケは呆れ顔を更に深くして、溜息をつく。 「落ち着きなさい。貴女、使い魔の召喚は成功したでしょう? 覚えてないの?」 「使い魔? 成功?」 その言葉に暫し呆然とするが、ルイズの脳裏にオレンジ色の3つの瞳を持つ巨大蛙の姿がフラッシュバックする。 「ひ、ひぃぃ―――――っ!! いやぁ―――っ!」 思い出した恐怖に、ルイズは恥も外聞も無くキュルケの腰に抱きついて泣き散らす。 抱きつかれたキュルケは振り払おうと試みるが、ルイズの腕は万力の如くビクリとも動かない。 「ちょっ、ちょっと落ち着きなさい、ヴァリエール!」 「やあぁぁ、つぶらなひとみのあくまがくるよぉ。はなしちゃいやぁ…… こあいのぉ…… たすけて、ちいねえさまぁ……」 ルイズの双眸は、キュルケの姿を通じて姉の姿を見ている。 恐怖ゆえに、幻の姉に助けを求めるルイズは、更に腕に力を込めて涙で滲んだ瞳で縋りつく。 「うっ……」 潤んだ瞳で見上げられたキュルケは、自分でも良く分からない感情が湧き上がってくるのを感じた。 しかし、何とかその感情を押さえつけて、ルイズを泣き止ませようと努力する。 縋ってくるルイズを柔らかく抱き返して、出来るだけ優しい声で慰める。 「ねえルイズ、泣き止んで頂戴。貴女がそんな有様じゃ張り合いが無いわ。 貴女はツンと澄まして、からかうとムキになって噛み付いて来る位が丁度良いのよ。 恐いのは此処には居ないから、泣き止んで頂戴。ねっ?」 「こあいのここにはいない?」 「そう、此処には居ないから安心して。何も恐いのはないから」 「うん、うん」 「そう、良い子ね」 「…………」 「ルイズ、そろそろ離して頂戴」 「…………」 何とか泣きやんだルイズに話しかけるが、返事が無い。キュルケは怪訝に思い、再度呼びかける。 「ルイズ?」 「すぴー……」 恐怖に駆られて泣き喚いていたルイズは、泣き疲れたのか眠ってしまっていた。 先程押さえつけた嗜虐心が、ムクムクと首をもたげてくるのがキュルケには分かった。その感情に任せて行動を開始する。 眠っているルイズの腕からは、既に万力の如き力は失われ、簡単に外す事が出来た。 柔らかな両頬に指を掛けて左右に思いっきり抓り上げる。スベスベプリプリした頬は良く伸びて、いったい何処まで引っ張れるのか挑戦したくなる程だ。 「ひたい(痛い)……」 「おはよう、ヴァリエール」 「ほはひょう(おはよう)……」 寝ぼけ眼で素直に返事を返すルイズであったが、すぐさま自分が何をされているのかに気が付き、熱湯に入れられた蛸よりも早く顔が朱に染まる。 「ひたいひゃなひっ(痛いじゃない)!」 「うふふふふふっ……」 ルイズは怒りを露にして怒鳴るが、キュルケは聞く耳持たず微妙な力加減で頬を引っ張り続ける。 キュルケはただ微笑むだけで、ルイズの言葉には一切耳を貸さない。 「いひゅまへひっはってふのふぉっ(何時まで引っ張ってんのよっ)!」 「んっん~? 何を言っているのか、分からないわねぇ。言葉はちゃんと発音しないと伝わらないのよ? うふふふふふふふふふふっ……」 ルイズは必死になって腕を振り回すが、18サント差もある体格差のお陰で、なかなか振りほどく事が出来ない。 真っ赤に成りながらジタバタするルイズに視線を落として、キュルケは今までに無い征服感に酔っていた。 ゾクゾクと背筋に電気が走り、快感のシグナルが発信される。そして、その快楽を増幅させる為の思考に脳が支配されていく。 『嗚呼…… あんなに必死になって、ルイズったらカワイイわぁ…… 引っ張るだけじゃ物足りないわね。このままこねくり回したら、一体どんな反応が返ってくるかしら? 甚振るだけ甚振った後に優しく慰めたら…… うふっ、うふふふふふっ…………』 加速する思考は次第に肥大化していき、周りの状況が隅に追いやられていく。 状況が好転しない事に苛立つルイズは、強引に体当たりをしてキュルケを振り払おうと試みる。 「こにょうっ(このうっ)!」 「あふぅんっ」 思考、もとい妄想に耽るキュルケは、成す術なくその体当たりを受けてベッドに押し倒されてしまう。強引な手段だったが、ルイズは目論見通りに指が外れた事にほくそ笑む。 結果、医務室の硬いベッド、キュルケ、ルイズの順で積み重なり、キュルケに抱きつく格好になったルイズは、その肢体の持つ柔らかさと熱を体全体で感じ、蟲惑的な香水の匂いに鼻腔がくすぐられる。 なんとなく気恥ずかしくなり、キュルケの上から退こうとした瞬間、空気が動いた。 ガチャリとドアノブが回る音が部屋に響き、ドアが開け放たれる。 闖入者は2人。頭が半ば禿げ上がった中年教師と、自分の身長ほどもある杖を持った小柄な蒼髪の少女の2人。 4人が部屋の状況を理解した時、部屋から音が消え去った。 後半へ続く 前ページ次ページ未来の大魔女候補2人